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若い男女が腕を組んで歩いてくる。
年格好は、紫藤とたちと同じくらい。
しあわせそうな笑顔のふたり。
そのふたりの姿を、目で追っている怜。
仲のいいカップルの姿に触発されたのか、怜の腕が紫藤の二の腕あたりに伸びていく。
気配を感じた紫藤、怜の腕を、拒否するように振り払う。
「……!?」
慌てて腕を引っ込める怜。
「ご、ごめんなさい!」
「……」
紫藤の無言の圧力に、物怖じする怜。
「そんなに嫌がるなんて思ってなかったんで、あたし、つい……」
「いまのままの、関係ではダメですか……?」
「そうじゃ、ありませんけど……」
しょぼくれた感じで返事をする怜。
「今後、このようなことは二度としないでください」
「……分かりました……」
消え入りそうな声の怜。
紫藤にも分かっている。自分のしたことが、大人げない行為だと。
怜の気持ちを受け入れる気はない。
その気持ちを弄んでいるだけ。
そんな自分に、嫌気がさす。
それでも、いまの関係を続けたいと願う。
怜のほうから、別離を切り出さないかぎり。
一生、卑怯者であり続ける覚悟はある。
そういう生活を、ずっと送ってきたから。
「今日はここで、失礼させてもらう……また明日、学校で……」
いつもの駅のほうに向かう交差点を渡らずに、門を曲がっていく紫藤。
「……」
何も言い返せず、黙って紫藤を見送る怜。
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