3.天泣

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「大丈夫ですか?」  僅かだが、彼女が震えている。肩を抱いていた手をそっと離してから彼女の顔を覗きこむと、なぜか泣きそうな顔をしていた。  俺、何かしたか?  抱き寄せたことに間違いはないが危ないと思って咄嗟に出た行動だし、彼女だってそんなこと絶対に理解しているはずなのに。 「あの……どっか痛いとこありました? 咄嗟だったからあんま気を配れなくて」 「いえ、いえ……大丈夫です」  絶対大丈夫じゃない。 「ホントすみません。俺、がさつだから」 「本当に大丈夫です。あの……気を使わせちゃってごめんなさい」 「気を使ったわけでは」 「ありがとうございます」  俺の声を遮った彼女は取り繕うように笑った。消えてしまいそうに見えた。  そしたらどうしようもなく胸が苦しくなって、ガラにもなく泣きそうになった。    なんでそんな顔をする?  なんでそんな哀しそうな、切なそうな顔をする?  いつも花みたいに笑ってくれるところに俺は惹かれたから、そんな表情をされるとどうしていいのか全然わからない。 『勉強は出来るけど、……良くはないよね』  聞き慣れた声が頭を過ぎる。 (千歳の言う通りだ)  付き合っている間何度か言われたことのある台詞だった。  俺は本当の意味で頭が良くない。人を思い遣っているつもりでも結局1周回って自分の損得を考えてる。  彼女のことだってそうだ。  天使とか惹かれたとか好きだとか言ってたって、自分のイメージから外れる事が起きたらどうしていいかわからない。  嫌いになるってわけじゃなくて、対処方法を知らない。
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