4.霧雨

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   「……嫌がらないんですね」  ひとつ息を吐いてから訊いたのは、少しだけ意地悪心が働いたからだ。  指を絡ませ家まで歩き、玄関の鍵を開けて中に入った瞬間手を引き寄せて抱きしめ―――今に至る。  個室が2つあるとはいえ元はひとり暮らし向けの部屋だ。大人がふたり立ったまま抱き合っているだけでギリギリの、広くない玄関。  何も答えない彼女の身体を抱きしめる腕に力をこめて、また訊く。 「嫌がらないんですね?」  最初こそ少し身じろぎしたものの、あとは大人しく俺の腕の中に収まっている。  俺は今どんな衝動から彼女を抱きしめているのか実は自分でもよくわかっていなかった。  初めて付き合った学生でもあるまいし『好きな子を前に頭が真っ白になって』ってのはない。  むしろ頭は冷静だ。思っていたよりも小さいんだな、とか、やわらかいな、とか、イメージしていた香りとは違う身体のにおい……ここまでくると変態くさいけど、そんなことを思う余裕さえある。  すっぽりと俺の両腕に抱きすくめられている彼女も、身体が強張ったのは最初だけ。不思議なほどに落ち着いてすらみえた。  だから、悪戯心が芽生えた。 「……もしかして、ちょっとは期待してました?」 「そ!」 「そ?」 「それは……ないです、けど……」 「けど?」  俯いているおかげで首が赤くなっているのが見える。余裕がないことがわかって内心満足しながら、言葉の続きを待った。  腹のあたりがもぞもぞと動いたと思ったら―――おそるおそる俺の背へ腕が回り、そこにぎゅう、と力が入った。    彼女が俺に抱きついた。  彼女が俺に抱きついている。  カノジョガオレニダキツイテ 「いやいやいやいやちょっと!!!!」  思考回路が一瞬にしておかしくなりかけて慌てて彼女を引き剥がす。  狼狽した俺をぽかんと見つめた彼女は、反撃とばかりに小悪魔的な笑みを浮かべた。
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