4.霧雨

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「やる気満々とは思わなかったけど……驚きはしましたよ」 「私もです」 「え?」  間髪入れずに返ってきた言葉に思わず目を見開く。  彼女は俺から目を逸らさないまま続けた。 「私も、あんなこと言うなんて思いませんでした」 「え?」 「……あなただったからだと思います」  そこで俯いて、俺の胸へグリグリと頭を擦り付けはじめる。 「イデデデ、痛いです」  ―――っていうか今ものすごい台詞を聞いた気がするが、直後のこの行動からして照れてるのか。  ひとしきり攻撃をした後、ぴたりとやめた彼女は俺の背に回していた手を解いて自分の胸元の前でぎゅうと握りしめた。  一見何かを祈るような仕草に首を傾げると、何かを堪えるような小さな声が聴こえた。 「知って…ましたよね」  確認するようでいて縋るような声色に俺は勝手に覚悟する。 (来ると思ってた、こんな時が)  気付かず知らないフリをし続けていた事を、彼女だって知っていたはずだ。  はー、と小さくため息を漏らして、答える。 「………知ってましたよ。最初から」  喫茶店で初めて見かけた時から。  雨の夜にこの家へ泊めた時から、知っていた。  祈るように擦りあわせている彼女の左手の薬指に、細い銀の指輪が在ること。 「そう……ですよね」 「気付かないわけないでしょ普通」  言いながら彼女のそこを人差し指でつついてみせた。爪が伸びていたらしく、チンと冷たい金属音が響く。 「とれないんです」 「え?」 「関節で止まってしまって、どんなにとってやりたいと思っても……」  よく見ると確かにそれは細い彼女の指の根元から関節までを微かにゆらりとするほどの余裕はあるのに、関節でがっちりと外せなくなっているようだ。 (……どういう意味?)  とってやりたいと思っても―――。  つまり本当は既に離婚しているかしたいかということで、指輪に何の意味もないとかそういうことなのか?  咄嗟に返答が出来ずにいると、彼女は少し哀しそうに笑いながら言う。
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