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「あ、あの、真己さん」
「今夜くらいこうさせてくださいよ。……大丈夫、何もしないから」
目を伏せて肩を抱いていた手を髪へと伸ばす。
少し身体を浮かせて協力してくれる彼女の優しさと慣れが、少し悔しい。
「……私も変な事言ってもいいですか」
「いいですよ」
俺は天井を仰ぐ格好のまま目を伏せているから、彼女がどこを見ているかわからない。
でも耳だけは彼女のすぐ傍にある。だから、彼女が息を吸い込む音は容易く聴こえる。
一度吸って、吐いて。そしてまた吸って、……また吐いた。
「あのね……私も、真己さんとこうしてるとすごく落ち着くんです」
「え」
「こっち見ないでいいから」
「あ、ハイ」
(なんで言われるがままになってるんだ?)
自分にツッコミながらも敬語じゃなかった彼女の声に少し嬉しささえ感じながら、続きを待った。
「勝手に名前借りた人間が言うことじゃないんですけど」
「いや部屋に呼んだのは俺ですよ」
「………じゃあ、結婚してるのに他の男性の家で暮らした女が言うことじゃないですけど」
そこを自分で突かれてしまっては痛い。
俺には何も言えない。
「真己さんといるといつも……息がしやすくて」
「息が?」
「……不思議なくらい落ち着いたし、息がしやすいんです」
「息が……しやすい……」
彼女の言葉の意味がよくわからない。
だけどそう言う声はゆったりと穏やかで、俺が惹かれた花のような彼女なんだということだけはわかった。
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