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「いらっしゃいませ」
カランという音と共に結城と俺は空調の効いた店内へ入った。
思った通り、涼しい風が汗ばんだ首をさらさらと撫でてくれる。瞬間爽快だ。
「マスター、ふたりともアイスでお願いします」
「かしこまりました」
視線を合わせて注文すると即座に微笑みで会釈をしてくれるマスター。
室内の面積も照明も来る人々も、俺にとっては落ち着いてやまない好ましい喫茶店。連れと来てもひとりで来ても心地よく迎えてくれる店に、美味い珈琲。
この店と見つけた時から何ひとつ変わらない、
いや、違う。
ひとつだけ変わった。
今、ここには花のような笑顔を咲かせる店員はいない。
それでもこの店が俺の贔屓だということは変わっていない。
「お待たせ致しました。アイス珈琲おふたつです」
「アリガトー。……君、新人さん?」
「ハイ!」
「そっか。頑張ってね」
「あっ、ありがとうございます!」
カラリコロリと氷がぶつかるグラスをふたつ、おっかなびっくりトレイに乗せて運んできてくれた女の子に結城は礼がてらそんな事を言う。
相変わらずだなとため息をつきそうになって自分のグラスに手を伸ばすと、ビシビシと俺へ注がれる視線を感じた。
「……何だよ結城。男に見つめられて喜ぶ趣味はねぇぞ」
「俺だって見つめるならお前より女の子がいいわ」
「ハァ? 何だよじゃあ見んな」
「いやさー」
ズズズと音を立ててストローで珈琲を吸い上げた結城は目を細め、睨んでいるのか憐れんでいるのかよくわからない顔をして俺を見た。
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