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「案外落ち込んでねーのなって思って」
「ハァ?」
「や、ホラ……ここにも普通に来るし?」
軽く訊いてきている結城だが、手元ではストローがグラスの中で高速回転させられていて未だ溶けない氷がガシャガシャとぶつかりあっている。
思わず吹き出して結城の肩を叩いた。
「気ィ遣ってたのかよお前! らしくねぇ!」
「だ! お前なぁ!」
「ヤベェーーらしくなさすぎて笑う」
「うるせぇ笑いすぎだろ!」
「……あっ、すみません」
店の雰囲気に相応しくない大声で笑ってしまったことに今更気づいてペコペコと周囲に頭を下げた。
特に咎めるような視線を浴びたわけでも店内が込み合っているわけでもないが、やはりその店に相応しい態度というものは必要だ。
結城と小突き合いながら改めてアイス珈琲へ手を伸ばし、のどを潤す。
「……心配してくれてたんだな」
小さく呟くと、少しバツが悪そうに結城が答えた。
「だっておまえ……あの人は? って訊いたら『出てった』で終わるから」
「事実だろ」
「そこでシャットアウトされたら傷になってんのかなとか思うだろ普通」
「まー……そうか」
「そうだよ」
――――あれから2か月近く経つ。
季節は巡り、既にアイス珈琲をかきこみたくなるほどにはなった。
初めてあの人に会った時から考えたら、季節をふたつまたごうとしている。
「結城が思ってるほど傷にはなってないと思う、俺」
「そうなん?」
「うん。だからそんな見んな気持ちが悪い」
「うっわヒデェ」
「で? お前はどうなんだよ?」
心配はありがたいが、うまく説明出来る気がしないから話を逸らした。
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