純愛

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私が藤宮さんに拾われたのは、もう遥か昔のこと。 私は美男美女のカップルの元に生まれた。 でも、その2人はどうもオツムが足りなかったらしく、私は意味の無い命を授かった。 父が母の中で感じた数秒の快楽で今の私がある。 だから〈はずみ〉なんて名前がついてもおかしくないと今思う。 美男美女の両親から貰った、外見。 Eライン、涙袋、スッと通った鼻筋。 自惚れているわけでは無く、藤宮さんに拾われた理由が外見だけだった、というもの。 私は美男の父とキャッチボールをしたり、美女の母にメイクを教えて貰ったりしたことはない。 スタイルも外見も不自由なく貰った。 けど、愛だけは貰わなかった。 たとえば、刑事の親を持つと刑事の仕事が身近になる。 花屋の母を持てば、花屋を継ぐだろう。 職人の息子なら幼い頃からそれを見よう見まねで覚えるだろう。 KKKの父親がKKKの息子を育てるのも、容易い事だと思う。 私が父と母に教わった事。 針はどこに刺せばいいのか。 薬をどう体内に入れればいいのか。 道具をどこに隠せばいいのか。 それから、薬の名前と金額。 それを見よう見まねで覚えた。 まだ善悪の判断も出来ないころに、それをすべて頭に叩き込んだ。 そして、そんな英才教育を受けた私は藤宮さんに拾われた。 ディーラーである藤宮仁に。 私が連れてこられたこのマンション。 先に住んでいたのは瑞樹。 瑞樹はここでの生活を丁寧に教えてくれた。 歳を重ねるごとに口も悪くなってきたけれど、今は大切なビジネスパートナー。 この一室に来るのはVIPがほとんど。 そんなんだから学校を出てない私たちでも分かる。 藤宮仁だって末端だということを。 私たちは氷山の一角であるということを。 「末端の末端だから私たちに回ってきてんでしょー」 「……あ"ージンちゃん、人使い荒いんだよー」 「藤宮さんの事、ちゃん付けで呼ぶとか引く」 私はキウイを頬張り、瑞樹は煙草の紫煙を荒々しく吐き出した。 料理はしない瑞樹の担当は掃除。 潔癖の疑いがある瑞樹が整えたキッチンは、それはもうピカピカ。 そんなキッチンに置いてある時計が午前10時13分を知らせてくれる。 「……あー、井川さんに電話したい」 「それもう依存じゃね?」
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