純愛

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瑞樹が出て行ったウォークインクローゼット。 私は化粧台にゆっくりと座る。 部屋のスタイリングはすべて私が任された。 私がここに来た頃は簡易的なベッドが置いてあるだけの閑静な部屋だった。 薬を打てるだけのスペースだけれど、目の肥えた客を相手にするとなると、少し改善が必要だ。 それから持て成すだけの知識と同じく、高級な家具を揃えるセンスも学習し藤宮さんから経費を貰った。 それで揃えた家具はどれも顧客から好評。 見た目から入るのは何も庶民だけじゃない。 持てる全てを駆使し、パフォーマンスするのが今も昔も私に与えられた使命。 私が初めて高級な家具ブランドを知ったのは、モルティーニだった。 どうやらここのマンションはモルティーニが好きなようで、備え付けには全て使われていた。 今いるウォークインクローゼットもモルティーニの物で、同様にキッチンもそれ。 ウォークインクローゼットは使われていなかった為、埃を被っていた。 潔癖疑惑のある瑞樹をどうにか説得して掃除をしたおかげで、本来の洗練された姿を見せてくれたのは今でも忘れられない。 備え付けの無い部屋にはアデルタのバブルチェアやカッシーナのLC4などを揃えた。テレビでよく見る家具はやはり美しさが違う。 そしてここの評判は口コミで広がっていく。 “あそこは居心地がいい”、と。 鏡に目線を向けると、また心臓の上で泳ぐ金魚が見えた。 私が心臓の上に金魚を飼った意味はやっぱり、藤宮仁のせい。 「……祐、見えてる」 「ふざけんな」 鏡に映った、瑞樹とは違うひとりの男性。 その男性は悔しそうに顔を歪めた。 数秒前、手に水鉄砲を構えながら私の背後に近付いてきていた祐。 頭が悪いのか、鏡に映っているとは全く分からなかったようだ。 ……そんな抜けてる祐だけど、仕事は素晴らしく的確。 「ウィンナーコーヒー淹れて」 「ふざけんな」 可愛らしくおねだりする祐に私はそう吐き捨てる。
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