純愛

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私たちの組織は四方八方に存在する。 手広くやっているようで、末端の私たちに誰がトップかだなんて知る由も無い。 薬、売春、闇金。 ……とりあえず私たちが知り得るものはそれだけ。 臓器売買、人身売買、なんてのも聞くけど、果たしてそれが本当なのかは分からない。 ただ、根も葉もない噂だと断言出来ることでもなかった。 しっかりと規律のある上下関係と全てを教えられないその謎の部分。 この抜けた男、祐(ユウ)は売春を扱っている。 「いいじゃん、淹れてよ ホント花梨(カリン)の飯マズイんだって! あいつ、ふざけてんだよ 黒焦げのニシンのパイとか意味分からないヤツ作ってさ “私このパイ嫌いなのよね”って言ったら、パイ顔面に投げつけられた ……あー、うまい飯にありつける瑞樹が羨ましいわ」 「……飲み物なら持ってるでしょ」 祐は映画を観た後なのかストロー付きのコカコーラの紙カップを持っていた。 祐は、笑顔で“飲む?”とそれを私に差し出す。 不思議に首を傾げ、それを一口飲むと、中は容器と違ったものだった。 「アル中みたいなことしないの」 「ねー だから淹れて 一生のお願い」 私は祐の一生のお願いを何度もきいている。 それはもう一生のお願いでもなんでもない。 「ウィンナーコーヒー」 「……ってか、今日のかかしはあなたなの?」 「イエス だから頼むって」 鏡ごしに目を合わす私と祐。 カチャッと水鉄砲を私の頭に突き付けた祐は、鏡の中で必死に私を口説き落とす。 けど、やってあげられる事とやってあげられない事がこの世にはある。 今この瞬間にウィンナーコーヒーは淹れてあげられない。 映画やドラマで、拳銃をばかすか撃つシーンがある。 けど私たちがそれを撃つのは、最終手段と教えられた。 むやみやたらに使うと足がつくらしい。 パイプ役である末端の私たち。 第一に教えられるのは 【一般人に紛れ込む】ということ。 だから祐が遊びに使うのは大抵水鉄砲で、私たちも実践で撃ったことなどない。 “刑事の勘だ”なんていう刑事を私は知らない。 刑事は論理的に考え、証拠を積み重ねていく。 トムとジェリーのジェリーになりたければ、足がつくような事は避けるべきだ。 「無理 これから仕事 見て分からないの?」 「……なに? ひかり、胸にタトゥー入ってんの?」
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