純愛

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「初回は安いの けど、維持費がかかるからやめといた方がいい!」 彼らが、薬を長時間買い続ける事が出来ないのは分かっていた。 そんな、お客にならない人たちに時間を使うほど馬鹿ではない。 ……初回は安い。 それはびっくりするほど安い。 学生を薬漬けにするのには、どこかの通販番組みたいに値引きするのがベスト。 「いくらぁ?」 クスクス笑う彼らに少しばかり頭が働く。 ……望むなら、繋いであげてもいい。 私たちの利益になるように、どこかにトリップさせてもいい。 そのまま中毒にさせ、……ゆくゆくは祐に繋いで男娼も……。 「おい、なにやってんだよ」 そんな事を考えていた時、私の肩を誰かが抱いた。 その声には覚えがある。 「玲ちゃん」 振り返るとそこには男性がいた。 玲という名前が本名かは知らないけれど、彼はれっきとしたアランさんの手下。 彼の仕事は逃す事。 ……逃し屋だ。 私たちの組織は、まるでパイ生地。 何層にも重なって出来ている。 眉間にシワを寄せた玲は私の腕を強く握り、男性達を睨み付けた。 「わるいね、先客なんだわ ……他当たって」 そう強めの口調で呟き、私をトンと押す。 玲が人の波に飲まれるようにそうしてくれたおかげで私は彼らから離れる事が出来た。 冷徹そうな強面の彼。 そのキリッとした顔を私に向けて、平然と私の腰に腕を回す。 ゆっくりと、まるでセックスするように腰を当てると、その強面の顔が崩れていく。 「……ひかりさん変な事されると困ります 久しぶりの外出で、顔を売るような事はやめてください」 「あなたがいるって分かったからー」 あはは、と笑う私に眉を寄せて困り顔をする玲。 彼は、外見に似合わず冷静で頭の切れる真面目な子だ。 ……さっきすれ違った強面の顔は、玲。 機転が利くて、空気の読める、頭の良い逃し屋。 それに甘えてしまうのは、彼らが仕事が出来ると分かっているから。 「……で? あの子たちはマークしてある?玲」 私は彼の首に腕を回し、耳元で囁く。 “ えぇ ……まぁ、次の人たちがどう動くのかは俺の仕事じゃないので知りませんけど ” そう玲が呟いた。 分担された仕事。 玲は逃し屋で、私はVIP専用ディーラー。 一度そこに足を踏み入れれば、あとは身を委ねるだけ。 暴力か、脅しか、麻薬か、売春か……。 彼らに選択肢は用意されていない。
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