青春

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「……はぁ」 浅い眠り。 爆音が耳に響いて、気怠げな目を開ける。 安眠をしない私たちはいつも寝不足。 でも、その寝不足さえも私たちには楽しみの一つだった。 よく祐が、テスト明けの高校生のようなテンション、と言っていた。 そして、なにかあってもいいように交代制で眠るのが鉄則。 もし、二人一組の両者が眠りに入る時は見張り役が入るようになっていた。 それを私たちは、畑にいる案山子みたいだ、とかかしと呼んでいる。 今日のかかしは花梨のようで、爆音で響いてくるテレビの音が聞こえてくる。 それは、いつも花梨が見ているアニメだった。 花梨はそのアニメがお気に入りのようで、それを爆音で観るのが日課だ。 寝室とも、仮眠室とも呼ぶキングサイズのベッドが置いてある一室。 そのサイドテーブルに置かれた時計に目を向けると、起きる時間を遠に過ぎていた。 大抵誰かに起こしてもらう私だけれど、今日はひとりで起きなければならなかった。 井川さんに起こしてもらうのが一番、気持ち良く起きられる。 ……もちろん、藤宮さんの声で。 「……花梨、うるさい」 すべてを低血圧のせいにして私は仮眠室を出てリビングに踏み込んだ。 眉間にシワを寄せ、リビングを見渡すとソファに座っている花梨を見つけた。 花梨がストロベリーパイを食べながらアニメを見ている。 昨日私が作ったストロベリーパイ。 フォークを口に含みながら、“おはよう”と呟く花梨。 私は働かない体でジェスチャーをした。 ……もう少しボリュームを落として、と。 「ひかり、あなた、ほんとケーキうまいよ お店出したら? ひかりのヤク入りケーキ、とか銘打って」 皮肉を混ぜながらも、素直に褒めてくれる花梨に弱々しく“ありがと”と呟く。 栗毛のゆるりと巻いた髪の毛、くりっくりの瞳にピンク色の唇。 花梨はどこからどうみても、可愛らしい清楚なイメージの女の子。 それがキレると後先考えなく走る、面倒くさい性格。 そして、料理ができる外見なのに全く出来ないという者。 「……それより、花梨 可愛いワンピース着てるね 新調したの?」 ストロベリーパイが更に可愛らしく見えるような、淡い色味をしたワンピース。 末広がりの上品なそれはいわゆるAラインワンピースで花梨によく似合っていた。 彼女が、ひとたび仕事に行けば、厳しく売春をさせる女社長のようになる。 言葉巧みに操り、売春で利益を上げる花梨。
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