純愛

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足音を立てることなく玄関に向かえば見えた男性。 今時の茶髪に毛先を遊ばせたその男性は両手にスーパーのレジ袋を抱えていた。 「おかえり、瑞樹」 私の大切なパートナー。 ウィキペディアには載っていない、ただの瑞樹。 その男性に笑みを向ければ、瑞樹はしれっとこちらを向いて静かに笑った。 まるで私を馬鹿にしたようなその笑いは、普段の瑞樹、そのままだ。 「武装するのは感心するけどここに帰ってくるの俺しかいねぇって分かってるよなぁ? 笑顔で出迎えられたって背中にナイフが隠してあると思うと白ける」 「……なぁに?じゃーおかえりのキスとかがいい?」 「はっ、笑わせんな 50過ぎのジジィのやつを咥えた口でなんかされたかねぇよ」 せせら笑う瑞樹は私を押し退け、キッチンに向かう。 瑞樹は口は悪いけど、これでも優しい方だし、なにより私とウマが合う。 キッチンに入った瑞樹は、“またキウイ食ってんの?”と呆れたように呟く。 「……ひかり、おまえさ、アレルギーなんだろ? 救急車呼ばれると真面目に困るからやめろって言ったよな?」 そんな嫌味を言うくせに私にキウイを買ってきてくれるあたりに、瑞樹の優しさを感じる。 ……いや、私を殺すためかなぁ? 「それよりなんで井川さんが来てたって分かるの?」 瑞樹は溜め息をひとつ吐いて私を見つめる。 “誰だって分かるだろ?” と小さく呟いた。 私は人形の頭にナイフを突き刺し、瑞樹の手からレジ袋を受け取る。 レジ袋の中には食材が豊富に揃っていた。 私はこのマンションから出入りが禁止されているため、買い出しは瑞樹の仕事。 主婦らしく切り詰めた食材、なんて物は入っていない。 藤宮さんから提供される生活費に相当する高価な物が大量に出てくる。 「ひかりから井川さんの匂いがする ……また、おまえ、井川さんを違う名前で呼んだりしてんだろ? 悪趣味超えて鬼畜だわ」
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