純愛

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鬼畜……。 失敬な。 「井川さんとはウィンウィンの関係だから気にしないで それに!私のビジネスなんだから瑞樹は口を挟まないで」 「ウィンウィンねぇ…… 仕事柄、ウィンウィンの関係なんて無いって分かってんだろ?」 「……」 瑞樹はいつものように私を嘲笑い、冷蔵庫を開けた。 瑞樹の言う通り。 ウィンウィンの関係なんて無いに等しい。 どちらかが喰われて終わる、そんな世の中に私たちは生きている。 弱い者が強い者に骨の髄までしゃぶられ、いたぶられて、終わるだけ。 ……だから、井川さんとの生温い関係性が私には大切だ。 井川さんとの関係が愛で結ばれている物ではない。 勿論、井川さんと身体の相性が格段に良いわけでもない。 でも、私には藤宮さんの声が真似出来る井川秀彰という人物はとんでもなく必要だった。 私に愛を囁いてくれない藤宮仁。 生身の人間を愛せない藤宮仁と唯一、通じ合えるツールが私には必要だ。 「……それにビジネスなら利益の出るものに集中してくんねぇ? マジ、この香水の匂い腹立つ」 「あー、なに? 瑞樹ちゃん嫉妬? 自分は慰めてもらえる人がいないからって 男の嫉妬程醜い物は無いよー」 私はケラケラ笑いながら瑞樹の肩を叩く。 瑞樹とはもう何年もの付き合い。 本名は知らなくても、過ごしてきた時間が私たちを繋ぎ止める。 私の戯言なんて気にも留めない瑞樹は淡々と買ってきた物を冷蔵庫に入れていった。 空っぽの冷蔵庫が潤っていく。 「ほんっとにひかり嫌いだわ ……喪服は?」 「えー、本当に行くの?」 私のその一言に瑞樹は嫌そうな顔をした。 “クソガキ”とでも心の中で思っているんだろう。 「……しょうがないって言ったよな? 俺らが窓口だったんだからって つーかこの話、何度した?」 呆れたように溜め息をつく瑞樹。 大口の顧客が死んだ。 私たちの所為で亡くなったわけでは無いにせよ、利益を生み出してくれていた顧客の死。 「俺だって嫌だつーの…… あの変態クソジジィに尻揉まれたのに、なんで!? なんで、俺が行かなきゃいけねぇの!?」
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