青春

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* 「……ひかり」 瑞樹のその声で目が覚めた。 宙に浮かんだ意識をしっかりと体に入れ、ベッドから起き上がる。 鈍い目眩がする。 浅い眠りとはまた違う、酷く“ 死にたい ”と思わせる目眩。 低血圧だからなのか、それとも胃に入れた物のせいか。 「……どのくらい寝てた?」 瑞樹から差し出されたコップ。 その中には、茶色い液体が入っている。 水面が揺れているそれは瑞樹が好んで飲むウーロン茶。 口に入れなくても正体が分かってしまう程に、習慣化している。 震える指先でそれを持つと、瑞樹は体を捻り小さいガラスの器を取り出した。 「4時間ぐらい」 「そう……」 瑞樹が持っている器には、切られたイチゴが乗せられていた。 冷たいウーロン茶が喉を通る。 食道の形まで分かる程に喉は渇いていた。 「花梨とかは?」 「まだいる」 そう呟く瑞樹は、私に目線を一切向けない。 よそよそしく無いのが救いだけれど、でも、いつもの瑞樹とは違う。 それが、愛情なのか同情なのか、私には分からない。 ベッドの際に置かれた間接照明。 オレンジ色の光が部屋に浮かぶ。 早足で過ぎていく時間を、少しだけ忘れられる。 「口開けろ」 素直に口を開けば、ころんと転がってイチゴが入ってきた。 ーー確かストロベリーパイを作ったおかげで、イチゴは冷蔵庫に無かったはず。 そんな事を考えても、それは果肉と一緒に噛み潰した。 「藤宮さんは?」 「リビングにいる」 イチゴが無くなった口はとても寂しい。 それを知っている瑞樹は、間髪入れず、私にイチゴを差し出してくれた。 「ストロベリーパイ美味しかったって言ってた」 徐々に生気が戻って来た気がする。 指先をゆっくりと伸ばすと、自分の体を自由自在に動かせる気になってくる。 私は水気を含んだパイは好きじゃない。 けれど、それを藤宮さんはいつも美味しいと食べてくれる。 「原さんもいる?」 瑞樹は一回頷いた。 「タコパしてる」 私はその言葉に少しだけ笑いながら、もう一口ウーロン茶を飲む。 藤宮さんが言った通り、みんなが集まっているらしい。 「……来るだろ」 少しだけ掠れた声が鼓膜に響く。 アンニュイに緩められた口元。 「行く」
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