正義

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金魚に子宮はあるのか? 朝叩き起こされた私の脳みそは、ただ、それだけをひたすら考えていた。 スマホの検索履歴には、金魚の繁殖行動をまとめた記事がずらりと並んでいるだろう。 どの記事にも、子宮という文字は載っていない。 精子を体内に入る行為さえも金魚はしていなかった。 私の目の前で洗濯機が動いている。 時たま、かちかちと金属が擦れる音が耳障りだ。 今、私の子宮は、剥がれている。 妊娠という、生命の神秘に対応出来る子宮を作り出すため。 そして、女であるために、毎月毎月飽きもせずやってくる。 「……仕事したくないな」 洗濯機の前に体育座りで座る私の口から出てきた、いつもとは違う言葉。 戸籍の無い私は、正確に今自分が何歳かを知らない。 なんとなくで生きてきた私の唯一、時を知らせてくれる体内時計。 血を流す月、12回。 そして、それを何年も重ね続けていく。 女の賞味期限に近付くように、時を知らしめる。 今日は一段と苛つく。 それが、低血圧のせいでも、生理の日が来たからでもない。 お気に入りの白いシーツを汚したからだ。 からんからん、と回る洗濯機。 このシーツも、代えのシーツも、洋服も、日の光を浴びた事はない。 洗濯機に放り込まれ、その後に乾燥機にかけられる。 それが日常であり、ここの通常。 身体も生活ライフに順応してくれると嬉しいのだけれど……。 「ひかり」 金魚の繁殖行動を検索していたスマホの電源を切り、声のした方に顔を向ける。 そこには、少し困惑した顔の瑞樹が立っていた。 「……メシ作ったけど」 料理担当は完全に私。 私に向けた嫌味で作る目玉焼きのテンションとは明らかに違う瑞樹のそれに、少しだけ笑ってしまう。 瑞樹は、とても優しい。 代えのシーツはあるから、今の時間に仮眠を取る事は可能。 なのに、瑞樹はそうやって私を甘やかしてくれる。 「ありがとう」 素直に感謝を伝えると、瑞樹は不安そうに苦笑いをした。
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