604人が本棚に入れています
本棚に追加
それから私達は旅館にあるレストランで遅い朝食をとった。
時間制のビュッフェにしたが、既に11時を過ぎていたので、料理は朝食から昼食へと変わろうとしていた。
私と悠治さんは皿に盛った料理を持って、海の見えるバルコニーに入り、自分達の席へと座った。
「香澄……そんなに食って大丈夫か?」
食べる前に夫は私のお皿を見ながら言った。
「そう言うあなたこそ、太るわよ」
私は自分も人の事が言えないと言わんばかりに夫のお皿を見た。
「だって、腹が減って仕方ないんだ」
「私だって同じよ。もうお腹ペコペコ」
「まぁ、朝っぱらから激しい運動すれば腹も減るわな」
「ちょっと、誰かに聞かれたらどうするの」
私は頬を赤く染まりながら静かな声で夫を窘めた。
だが夫は平気な顔をしていた。
「大丈夫だよ。こんなにも綺麗な海を目の当たりにしながら、俺達の会話を盗み聞こうだなんて人はいやしないよ」
確かにそうだ。
バルコニーには私達の他にも家族やカップルなどがいたが、その殆どが景色を眺めて各々の会話を楽しんでいた。
「それでも、やめてよね」
「悪かったよ。もうこれ以上は言わない。さっ、食べよう食べよう」
ちゃんと反省したのか、夫は私に頭を下げた。
そして顔を上げると、すぐにご飯を食べ始めた。
――よっぽどお腹が空いてたんだな。
箸を進んで口に運ぶ夫を見て、私も空腹の限界が頂点に達した。
それからは綺麗な海を眺めながら、食事を楽しんだ。
最初のコメントを投稿しよう!