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「別に盗み聞きするつもりはなかったんだけどな……」
悠治さんは苦笑いを浮かべながら、1人呟いた。
そんな夫を見て、とりあえず心配はないだろうと考えたが、やはり完璧とは言えず、一応、聞いてみた。
「ねぇ、本当に大丈夫だよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「大丈夫」と言い切る悠治さんは私を心配かけさせまい為に、あの夜の話をもう少し詳しく話してくれた。
「君と一緒に部屋に戻る前に、俺の痕跡を消そうと指紋を全て拭き取った。あの刑事達の会話から察するに俺の痕跡は発見されていないようだな。でも念には念を入れて、刑事達には容疑者を予め用意しといた」
「用意?」
「最初にドアを開けた男がいたろ?」
「うん。その男のお陰で悠治さんは中に入れたのよね?」
「そうだ。俺は最初からそいつの暴走にしようと、頭を壁にぶつけただけにして、それ以上の怪我を負わせていない。容疑者が被害者を装うのは当然だからな。でもナイフの取っ手に奴の指紋を付けといたから、まず刑事はあいつを疑うだろう」
私はただ、夫の話を聞いていた。
相変わらず、悠治さんの用意周到ぶりには舌を巻いた。
でも、万が一という事もある。
完璧を求める夫の事だから、指紋の吹き忘れがないよう念入りにチェックしただろうと思うから、そんなに心配してはいなかった。
だけど、まだ心の内は晴れはしなかった。
それを顔に出してしまったのか、悠治さんは更に話を続けた。
「君の思ってる通りだ。万が一って時も考えなくちゃならない。だから、そうなる前に手を打っておこうと思う」
手を打つ………
夫は具体的な事を言わなかったが、おおよその見当がついた。
――でも……それが可能なのかしら…………
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