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久しぶりに塾がなかったし、あまりに天気がいいので栞里は散歩に出かけた。昨日テレビで見た紅葉や、澄み切った青空もとても綺麗だったけれど、受験生には関係がない。それが少し悔しかったせいもある。
手にしているのはスマホのみ。ジーンズと厚手ニットの長袖の上に、学校指定のコートを羽織るだけで出発した。
どんなに天気が良くても、立てた予定が世界史や数学では気分は落ちるだけだ。落ちるのは分かっているから、一度上げるつもりだった。
足が『FORTUNATE』に向いたのは自然な成り行きで。
――中折れ帽、黒縁伊達メガネ、フードと襟のつながった細身のツイードの上着に、グレーのホットパンツ。
お姉さんに会えたのは、必然。
のあああ、と変な悲鳴を上げそうになって、慌てて口をふさいだ。休日ということもあってか、何人かお客さんが入っているのがショーウインドー越しにもわかった。大声なんて確実に変な注目を浴びてしまう。
美人なお姉さんは、栞里の中で大変身を遂げた。イメチェンでは生易しい。めっちゃ似合う――イケメン、イケメンがここにいます! と心の中でだけ、思いっきり叫んだ。
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