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次に『FORTUNATE』の前を通ったのは、一週間くらいたってからだった。塾と特別補講の予定上、暗くなる前に帰る日がなかったせいなのと、朝はどうしてもまだまっすぐバス停へ行ってしまっていたから。
短縮授業になって、昼食と、塾の用意のために帰宅する道すがら、癖になった道のりを無意識に歩いていた。
お姉さんは、いた。
ただそれよりも、営業時間のはずなのに、店内が暗いことの方が目についた。どきり、と心臓が嫌な暴れ方をして、思わず制服の胸の部分をつかんでいた。
小走りに駆け寄った扉には、「close」の掛看板が揺れていて。その少し上に貼られていた紙に、目が吸い寄せられた。
よくある文言、「誠に勝手ながら……」で始まる内容が、全然頭に入ってこなくて。
「……え……?」
扉に手をついて、茫然とお姉さんを見上げた。だって、ショーウィンドーに立つ彼女はまだ、冬物のベージュのコートをひらめかせていたから。軽く顎を上げて空を見るような横顔に、暗い雰囲気なんてどこにもなかった。
うそ、と無声の呟きがこぼれたとき。
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