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 まだマネキンなんて言葉も知らないほど小さい頃から、いつも違う綺麗な服を着た「お姉さん」と、おしゃべりした。ぬいぐるみやごっこ遊びとおんなじだ。  ある時、友達と喧嘩した帰りに「お姉さん」に会いに行った。些細なゲームで、自分ばかり鬼をやらされて悔しかったこと、ずるだと言っても聞いてもらえなかったこと、とっさに友達を振り払って倒してしまったこと。明日遊べなかったらどうしよう、もう嫌いって言われたら……。  目の縁にたまっていた涙が道路に落ちた時――大丈夫だよ、と声が降ってきた。  隣には誰もいなかった。右にも左にも、人は、誰も。だから、一瞬空耳だと思った。  そしたら、もう一度。 『明日、謝ればいいんだよ』と。  声がした。ちょうど自分を見下ろすように立つ「お姉さん」から。  いくつだったか、覚えていない。子供が見た、都合のいい白昼夢の記憶だとしても、相手は確かにいつもいる「お姉さん」で――小・中学と通う学校が上がっても、気が向くと独り言じみたおしゃべりをしてしまう相手になっていた。  別に本当に人形が動くとか話すと思っているわけではない。それに高校生になったばかりのころ、「お着換え中」な場面をうっかり目撃し、ばらばらになった手足と、たまたま見えた綺麗なスカートやアウターの値段に衝撃を受けながら、あらゆる意味で夢が覚めたのは記憶に新しい。     
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