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藤宮栞里のちょっとした幸せは、毎日の通学路の途中にある。
いつも同じ場所、大体同じ時間に見かける「お姉さん」。その素敵な服を見ることだ。自分にはとても似合わないだろう、エレガントなワンピースやコート、色とりどりの靴や小物。
もちろん、見惚れるのは衣装だけではない。お姉さんは抜群なプロポーションと長い手足も持っている。そしてほっそりした指の先も綺麗な――美女。
「じゃなくてマネキンでしょ?」
「でも美女なの!」
「顔ないし。バカ?」
今日はグレー地にミンクっぽい素敵なファーのついたコートだった、と報告したらバッサリ切られた。相手はなんのかんの、小学生からのご縁がある、木ノ原那美。ショートカットの、いつだって物事をストレートに言ってくれる、気心知れた友達だ。
「……相変わらずよーしゃない……」
「この時期に間抜けなこと言ってるからよ」
今何時だと思ってんの、と額をつつかれた。もちろん、栞里だってわかっている。高校三年の秋なんて、誰もかれもがピリピリしている。きっとのんきなのは自分と……あとはAOや推薦で進路を決めつつある勝者か。
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