帰郷

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 四国の中央に龍神が住まう山があるのは、道中シユウから話を聞いていた。龍神は四国が共通して崇める、守り神だと説明された。龍神に仕える各国の皇帝一族が政を執り、人々は熱心に供物を捧げ繁栄を願い感謝する。  しかし龍神の怒りを買えば、空には雷鳴が響き渡り嵐を呼ぴ、山は崩れ河川は氾濫し人々に混乱をもたらすと云う。昔話でよくある設定だ。  補足を踏まえつつ、アナンが丁寧に教えてくれた。そして話はいよいよ本題に入る。 「十七年ほど前、西国に双子の太子がお生まれになりました。兄君をレイリ様、弟君を……ユウリ様と名付けられました」 「――っ」  教えてもいない名を呼ばれ、心臓がドキリと挑ねた。ユウリは胸元のお守りを握り、ゆっくりと息をして鼓動を落ち着かせる。  アナンはユウリをちらりと見ただけで話を再開した。 「お二人が三歳を迎える頃のことです。当時の皇帝、お二人のお父上が呼び付けた占術師がこう予言したそうです」 『双子が共にいれば災いがふりかかり、西国は滅びるであろう」  喉が引き撃り、息が止まる。年齢は丁度当てはまる。  最初は、皇帝に似ているから驚いているのだと思っていた。しかしアナンの話を聞いている内に、自分が存在すること自体があってはならないのだと感じ始め、占術師の予言が決定打となった。  ユウリの顔から血の気が引き、真っ青になっていた。  アナンが慌てたように「この話には続きがあります」と続けた。  二人の太子を溺愛していた皇帝と皇后は大層悩み苦しんだそうだ。そして出した結論が『龍神に判断を委ねよう』だった。  弟のユウリは眠りの香を焚かれ、龍神の住まう洞に置き去りにされた。最後まで反対していた皇后は耐えられず、三日後一人綱に向かったがそこにユウリの姿はなかったそうだ。ユウリが着ていた衣服も装飾も見当たらず、皇后は半狂乱になって探し回ったが、結局見つけることはできなかった。  そして皇后は床に臥せ、翌年鬼籍に入った。  ちらりとアナンがユウリの顔色を窺った。 「……そう」  アナンの話が正しければ、予言のせいでユウリは捨てられ母は死んだ。  なんと理不尽なことだろう。だのに、誰も恨むことができない。占術師は仕事を全うした。父は国のために断腸の思いで我が子を手放し、龍神はユウリを生かした。
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