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「じゃあさ、なんで俺はまたここに来たの? 俺がいると国は滅びるんじゃないの?」
おかしくもないのに笑い出しそうになる。頬が強張り、声が震えてしまう。
アナンは口を喋み、視線を落とした。
武官たちも、何かに耐えるように唇を噛み締めている。
「皇帝陛下の身に何かあった、とか?」
亡くなってはいないだろう。もしそうれあれば、もっと空気は重く悲しみに満ちている。生きているがそれに近い状況、例えば――。
「病か、それとも――怪我をして動けない、とか」
「それは」
馬鹿正直な反応が真実を示していた。
「俺を戻したのは、誰?」
「そ、それはわかりかねます。私共もユウリ様のお姿を見るまでは、信じられませんでしたから」
結局西国に来てしまった理由はわからずじまいというわけだ。この様子だと、誰に聞いても同じ答えが返ってくるだけだろう。だが皇帝の容態とユウリが来た理由は、どこかで繋がっているのかもしれない。できれば、判断を付ける情報がもっと欲しい。
「恐れながら」
「なに?」
「戻された、とおっしゃいましたが。ユウリ様は今までどちらに?」
問われて初めて、自分の話を何一つしていなかったと思い出した。聞かれなかったからと言えばそれまでだが、名前すら教えていないのにお互い信じろというのは無理な話だ。ユウリは良くても、あちらがそうはいかない。
仕方ないとばかりに、ユウリは違う世界で育ち、倒れたと思ったら龍神の山にいたことを伝えた。「信じる信じないは自由だ」と付け加えて。
風に導かれたことは黙っておき、自力で下山したところでシユウたちに見つかったのだと言えば、アナンは「なるほど」と領いた。
あっさり信じられても拍子抜けしてしまう。皇帝の過去と、アナンの話を聞いて作った与太話かもしれないのに。
「信じるの?」
「全部、とはいきませんが。今だからお教えできますが、数日前、占術師が『龍神の山に救い手が現れる』と宣言したのです。『救い手』が何なのかわからないまま、山を見回らせておりました。当然、極秘情報なので、武官たちにも詳しくは伝えていません」
「それだけで?」
ユウリには理解しがたい状況だった。
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