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ここでなら、自分の居場所が見つかるのではないかと、少なからず期待していた。だが蓋を開けてみれば、子供の頃にこの固から追い出された皇帝の弟だった。
「なんなんだよ」
ユウリは自分の身を守るように体を丸め、視界を遮断した。
風の音も、小鳥の嚇りも聞こえない。
「ユウリ様? いますかー?」
ノック音とかろうじて聞こえる声に、勢いよく体を起き上がらせた。
この世界で知っている人物は数えるほどで、その中でこんな間延びした喋り方をする者は一人しかいない。
「いるよ。開いてるから、入って」
「失礼しまーす」
やはり間延びした喋りで扉を開けたのは予想通りの人物で、ユウリは安堵の息を漏らした。
「シユウ、だったよな。何か用か?」
努めて冷静に言ったつもりでも頬が緩んでしまう。扉を聞けた時に入り込んだ風が、喜んでいたせいもある。
「用って言う用もないんですけど。暇だったから、こっそり来てみました」
「いいのかよ」
あんまりな言い分に、思わず噴き出してしまう。
ユウリは室内を見回し、椅子を見つけるとそこを勧め自分も腰を下ろした。
「ここに来てから何も飲んでないでしょ? 喉渇いたんじゃないかと思って持って来たんですけど、飲んでいただけますか?」
不思議な敬語を使いながらシユウが取り出したのは、竹で作った水筒だった。
言われてから喉の渇き覚え、ユウリはこくりと領いた。シユウは待ってましたと言わんばかりに、湯呑も取り出しお茶を注いでくれる。茶色のそれは香ばしい匂いがして、口に含みゆっくりと飲み込んだ。冷たいとは言い難いが、喉を潤し気持ちまで満たしてくれる。
喉の渇きも合間って、お茶は今まで飲んだどれよりも美味しく感じられた。
「おかわり、いります?」
欲しいと答えればシユウはにこにこ顔で湯呑にお茶を注いでくれて、会った時と変わらぬ態度に安堵した。ユウリについて何も聞かされていないのであれば、そのままでいて欲しいと願ってしまうのはわがままなのだろうか。
シユウはアナンたちとは違う。今日初めて会ったのは同じなのに、アナンよりもシユウの方が安心できる。同じ、西国の人間に変わりないのに。
知るのは怖いけれど、ユウリは恐る恐る訊ねてみた。
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