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卵サンドは辛子がいい具合に効いていて、なかなか美味しかった。
おにぎりの鮭も、身が大振りで食べ応えがある。
塩加減もいい。
さすが弁当屋のおにぎりだ。
久賀の中で青鞍の評価がグッと上がった。
「つまり篠塚さんは、殺したいほど安田里穂を愛していた人物だと? では、安田裕紀はどうです。その推理では彼も当てはまりますよ」
「安田裕紀がホシだとして、役者でもないのにあんなにタイミングよく気を失えるでしょうか。そんな人が死体を切り刻めると思いますか」
サンドイッチを食べ終えた雅季はおにぎりのフィルムを開きながら久賀に訊いた。
倒れた安田は、制服警官と浅岡医師に任せていた。
「どうでしょう。殺害後は必死だったけれど、改めて遺体と対面して張り詰めていた緊張の糸が切れたとか。犯人像としては、安田里穂が好きだったが、個人的に彼女のことを良く知らない程度の関係、ですかね」
「まあ、それについて土屋亮子から何か引き出せるといいんですけど」
雅季はごみを袋にまとめ、ミネラルウォーターを飲んでから車をスタートさせた。
目的地は土屋亮子のアパート。
病院を出てすぐに連絡すれば、家にいるとのことだった。
病院の駐車場から車が本通に入ると、久賀は腕時計を見た。
三時十分。
オメガのデ・ビルは検事試験の合格祝いに、父親から贈られた。
息子が検事になった動機も知らずに、父親は「社会に貢献出来る立派な仕事だな」と喜んでいた。
雅季が車を運転し、自分はその隣にいる。
たとえその状況が業務上であるとしても、検事になってよかったと久賀はしみじみと思う。
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