第四話

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 真冬の、弱いが透明度の強い陽が裸になった街路樹に降り注いでいる。  磨かれたフロントガラスに弾ける光は、まるで今の自分を祝福しているかのようだ。  雅季がつけたラジオから、ニュースが流れて来た。  安田里穂のニュースも報じられた。二十代女性の遺体が発見され、犯人はまだ不明という公式なものだった。  土屋亮子が部屋のドアを開けると、雅季は警察手帳を見せた。  土屋は硬い面もちで身分証と雅季を確認し、後ろの久賀を見てから「どうぞ」と二人をワンルームマンションの玄関に入れた。三人立つとさすがに狭い。  土屋は大人しいタイプで、小柄。  服もオリーブ単色のセーターに、エスニック柄のルーズパンツというシンプルなものだった。 「お忙しいところ、突然お邪魔してすみません。あの、お時間大丈夫ですか」  雅季が訊ねると、土屋はおずおずと顔を上げ、頷いた。 「はい。六時前に家を出れば大丈夫なので、それまでは」 「失礼ですが、ご職業は?」 「ヨガの講師です。今日は夜のクラスだけなので」  久賀はその説明と服装で彼女の人柄もほとんどわかったような気がした。  だが、油断禁物だ。  「あの、里穂のことで話って……」  この様子だと報道はまだ耳に入っていないのだろう。  雅季が簡潔に安田里穂の遺体発見の報告をすると、相手の目に、みるみる涙が溢れた。 「嘘でしょう? 本当に里穂なんですか?」  雅季が「本当です」ときっぱり放つと、土屋は部屋の奥へ駆け込んだ。
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