プロローグ

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プロローグ

 駅の改札を出たとたん、冷たく湿った風が顔に吹き付けると、久賀丞已(くが じょうい)は思わず左手で、トレンチコートの襟を寄せた。 顔をそこに埋めるように、歩き出す。 ここ数日で積もった雪は融けてアスファルトの道に水たまりを作っていた。タクシー乗り場を横目で流し、そのまま過ぎる。  商店街はほとんどの店がシャッターを下ろしていた。  風営法にひっかかる店など、この街にはないだろう。深夜営業のカフェや居酒屋、コンビニに寄ることもなく久賀は家路を急いだ。  商店街を過ぎて橋を渡り、閑素な住宅街を十分も歩けばマンションに着く。異変に気付いたのは商店街を抜けた辺りだった。  ――付けられている?  外灯が転々と並ぶ道には人気は全くない。だが、微かに後ろから軽い足音が聞こえる。  試しに歩速を緩めてみた。相手の距離は縮む気配はない。  やはり一定の間隔を保っている。  久賀は外灯の光が届かない暗がりで、マンションの手前で小道を素早く右に折れ、ブロック塀に身を潜めた。その直後、さっと影が通り過ぎていった。  外灯に一瞬照らされた後ろ姿は、カーキ色のブルゾンに黒のリュックサック。     
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