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第一話
篠塚雅季が鳴海東署に着任して四年。
その間何度も――本庁に比べればその数は較べようもないが――殺人事件を担当して来た。だが、こんな死体に出会ったのは警察官として就任以来初めてだった。
死体は商店街にあるエルフ結婚相談所のショウウィンドウに「飾られて」いた。
それが着ているクリーム色のウェディングドレスは、金糸で緻密な刺繍に、レースのフリルが贅沢に施された豪華なもので、髪はアップにされ、顔も完璧にメイクされていた。
死の花嫁は美しい。
だが、手元のブーケを見ている濁った目を見ると、やはりすでに生きていないのだと痛感する。
悪寒すら走るのは、道路の水たまりが凍るほど寒い早朝だから、というだけではない。ガラスが隔てていても、死体と自分との温度差を身にしみて感じるからだった。
また自分が同じ女であるから、その「幸せ一杯の死体」に同情してしまうのだろう。
ウィンドウ内は壁や床一面青いサテンで覆われていて、赤いバラの花弁が散らばっていた。彼女はその上に置かれた白い椅子に座っている。
ブルーシートで覆われた現場は海中のようで、死体の顔色はさらに青白く見えた。
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