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現在
福島県郡山市逢瀬町、ここにアンドーサイクルという自転車屋がある。
ここで営業を始めて四十年以上が経つ。
少子化と地方で自動車の所有率が上がり、さらに大手のチェーンの進出で、自転車屋の個人経営が難しくなる中、早くからスポーツ自転車中心のラインナ
ップに移行し、かつ今まで通りご近所のサポートも抜かりなく行い、現在まで営業を続けている。
そこに一台の古いMTBを引いて、一人の青年が向かっていた。引かれているのはGIANTから二〇〇五年の秋に発売されたROCK5500、色はブルーだ。
青年はアンド―サイクルの前にMTBを止め、店内に入った。
中では作業着を着た一人の老人がロードバイクを組み立てている。
「今日は」
老人が顔を上げる。
「あんれッ? 悠輝ちゃん?」
「はい、安藤さん、お久しぶりです」
青年の名は鬼多見悠輝、近くにある戌亥寺の息子で上京していた。
「こっちさ、帰って来たの?」
「ええ、しばらく居るつもりです」
「じゃあ、お寺は……」
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