過去

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 今から十年以上前、悠輝は志望校の福島県立(くわ)()高等学校に合格した。  桑高は県内トップクラスで、彼の偏差値は合格ラインすれすれだった。受かったのは運が良かったからだ。  ただ、喜んでばかりもいられなかった。桑高は戌亥寺から十キロ近く離れており、バスか自転車で通うしかない。バスは一時間に一本しかないので、雨や雪が降らない限り自転車がいい、そもそも悠輝はそれに乗るのが大好きだ。  そこで新しい自転車を父の(ほう)(げん)に合格祝いにねだったが、あっさり(きやつ)()された。仕方なく、小学校から乗っているママチャリで通学をしていた。  そんなある日、上京し結婚した姉の(はる)()からメールが届いた。眼を通すと、合格祝いを振り込んだと書いてあった。姉に合格を報せたのは三月で、今は六月だ。  姉は父と折り合いが悪く、高校を卒業してから九年間一度も実家に戻って来ない。それどころか、結婚した事も、娘が生まれた事も法眼に伝えていない。  戌亥寺の電話にかけてきても、悠輝が出ない限り切ってしまう。高校生になり彼が携帯電話を持つようになると、こっちに連絡が来るようになった。     
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