過去

3/15
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 昨年十二月に遙香は娘を産んでいる。今は非常にお金のかかる時期だ。その証拠に合格を伝えて三ヶ月遅れで祝いを贈って来た。  しかし、姉の弟にいらぬ気づかいをさせたくないと言う気持ちも充分解る。今はまだ何の恩返しも出来ないが、いずれ大人になったらやればいい。姉だけではなく、その娘にも。 「ありがとう。ところで、(あか)()はどうしてるの?」 〈オッパイあげたから、今は寝てる〉 「そっか。何とか夏休みに会いに行くよ」 〈うん、待ってる。でも、あんまりムリするんじゃないわよ〉 「わかってる」  悠輝は電話を切ってしばらく考えた。これで念願のMTBを手に入れられるが、法眼が金の出所を訊いてくるのは間違いない。  普通の親ならシラを切り通す事も可能だろう。だが、法眼は普通の人間ではない、人の心を読む異能を持っている。子供にとってこの上なく厄介な親だ。  悠輝も幼い頃から修行をしており、ある程度は父の能力に抵抗出来る。が、あくまである程度なので、本気を出されてはそれまでだ。  遙香は自分の事を一切父に知られたくないと思っている。悠輝も話した事は一度も無い。 「ま、いいか」  バレたらバレただ、別に悪い事をしているわけではない。悪いのはむしろ親父だ。大体、今時家事を全部息子にやらせる親がどこに居る?     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!