心胸

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「Take off」 藤島の声が鋭く響いた。 藤島が、副操縦士席との間にあるスラストレバーを前方へ押しやると、エンジン出力が上がり、轟音のなかにか細く甲高い音が重なった。 滑走が開始された。急激な加速により体がシートに押し付けられる。タイヤから振動が伝わってくる。機体はあっという間に80ノット(時速148キロ)を超える。 「V1」 時速200キロに達したことを、相馬が冷静な声で伝える。滑走路中央に記されている等間隔の白線は1本の線となり、凄まじい勢いで後方へと流れていく。 「VR」 時速236キロ──藤島が操縦輪を引いた。 機首が上がった。 車輪が地面から離れ、同時に耳を圧迫するかのような轟音から解放される。 「V2」 宙に浮いた機体はすぐに時速250キロ、上昇可能速度に達する。 「Gear up」 「Gear up」 藤島の指示を復唱し、相馬がセンターパネルの右手にあるギアレバーを操作する。 車輪が機体へ格納された。機は毎分500~600メートルのスピードで上昇を続ける。 18時12分── 西に傾いた太陽の、黄金(きん)色の光を浴びながら、日航123便は乗客乗員524人を乗せて、群青色の空へと飛び立った。
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