迷走

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「東京ディパーチャー管制、こちら日航123便、1800フィート通過中」 東京湾上空、機は上昇を続けている。 「日航123便、こちら東京ディパーチャー管制。レーダーで捕捉しています。右旋回して2万4千フィートまで上昇してください」 「日航123便、右旋回して2万4千フィートまで上昇します」 復唱し、相馬は右側に顔を巡らせる。遠くに積乱雲が見えるが、他の機影はない。 「Right clear」 「Right clear」 藤島は相馬に復唱すると、操縦輪を右に倒した。左主翼の補助翼(エルロン)が下がり、右主翼のエルロンが上がる。左主翼が揚力を増し、右主翼の揚力が減ることで、機体がゆっくりと右に傾く。 高度を保つため操縦輪を引きつつ、右のラダーペダルを少しずつ踏み込む。垂直尾翼の方向舵(ラダー)が右に振れ、機首が右を向く。 528もの客席を有するB747型機、通称「ジャンボジェット機」は、悠然と方向を変えた。その様は、あたかも大海を泳ぐ鯨を思わせた。 「フラップアップ」 「フラップアップ」 機長である藤島の指示に従い、副操縦士席から近いところにあるフラップレバーが、相馬の手によって操作される。フラップ(主翼にある可動翼。主翼面積を変えることで揚力を増減させる)を上げたことにより空気抵抗が減り、機は速度を増した。まもなく房総半島を抜け、相模(さがみ)湾上空を通過することになる。 18時18分、右側に富士山と江の島を臨む、上空1万フィート(3000メートル)に達した。これから更に2万4千フィートまで上昇する。
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