But now, uncontroll

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客室高度警報音が鳴り響いている。 「降下(ディセント)」 客室の気圧が何らかの原因で下がっているのなら、高度を下げなくてはならない。藤島は操縦輪を握る手に汗を感じた。 「Descent」 復唱し、スラストレバーを慎重に、僅かに手前に戻す。エンジン出力が絞られ、機首が下がり、降下が始まる。 しかし今度は、主翼に受ける揚力が強まり、機首が上を向いて上昇を始め、やがて水平飛行に移ってしまった。こうしたことは、水平尾翼の角度を変えることで抑制できるのだが、油圧系統がダウンした123便にとって、それは不可能なことであった。 また、このとき既に垂直尾翼のほとんどを失っていた機体は、左右へのローリング(傾斜)を制御することも出来なくなっていた。およそ1分半の間に、右40度の傾斜から左40度へと傾斜する。これが繰り返される。 相馬も藤島も、そして吉井も、垂直尾翼がなくなっているなど夢にも思っていなかった。自分たちが操縦する機体に何が起きているのか解らない状況で、機体を安定させようと必死になった。 駿河(するが)湾上空に差し掛かっていた。右旋回して羽田へ戻ろうと試みつつも、右へ左へと大きく機体を揺らしながら、なおも西へ向かっていた。 東京航空交通管制部から交信が入った。 『Your position 72 miles to Nagoya, can you land to Nagoya?(現在、名古屋空港から72マイル(115キロ)の位置です。名古屋に着陸しますか?)』 ふと相馬は藤島に目を向けた。 このまま名古屋空港に着陸するという手段もある。が、羽田空港のほうが、より緊急時の救助体制も機器も整っており、そして現在、図らずも機は右へと旋回しつつあった。 「Ah… Negative. Request back to Haneda(いや、羽田に戻りたい)」 『All Right』 この時、18時30分──羽田を離陸して18分、異常な衝撃音が発生してから6分が経過していた。
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