But now, uncontroll

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*** チーフパーサーの長嶺拓也は腕時計に視線を落とした。 18時30分──酸素マスクが投下されてから6分。機は、未だ降下していない。酸素が供給されるのはおおよそ18分。機体に何が起きたのか、これからどうなるのか予測できない。長嶺は客室乗務員に、酸素ボトルの用意を指示した。 コクピットから何も情報がないことが不気味だった。とにかくコクピットから情報を得ようと、長嶺は機体前方へと向かった。 ちょうどその時、航空機関士の吉井が姿を現した。 「客室はどうです?」 「比較的落ち着いてますが……」 「火災警報音が鳴りましたが」 「いえ、客室内で火災は確認されてません」 火災は発生していないのに、火災警報音が鳴る──もしかしたらコクピットは、自分が想像している以上に混乱しているのかもしれない。だが、乗客とコクピットを繋ぐ、直接の窓口である自分が、しっかりと現状を把握するべきだ。 長嶺はめまぐるしく思考を巡らせ、慎重に言葉を選んだ。 「R5(機体右側後方)のドアの上部が、一部剥がれ落ちています。客室内は、他に異常は見当たりません。……何が起きてるんです?」 当然といえば当然の問いに、吉井は微かに眉を寄せた。 「油圧系統(ハイドロ)オールロス……昇降舵(エレベーター)方向舵(ラダー)も効かない」 「えっ──」 「キャプテンは羽田に戻るつもりでいる。不時着する可能性が高いです、乗客の安全を確保してください」 まさか、と長嶺は耳を疑った。ジャンボ機は墜ちない──その安全神話が崩れるというのか、自分が乗っている、この機で。 パン、と勢いよく吉井に肩を叩かれ、長嶺は我に返った。 「キャプテンがいつも言っているように、我々の使命は、お客様を安全に目的地へ運ぶこと。機体は私たちが全力を尽くして羽田へ飛ばします。お客様を、よろしくお願いします」 そう、自分の使命は、乗客の安全を守ること。ましてや自分はチーフパーサーなのだ。 長嶺は正面から吉井の目を見つめ、大きく頷いた。
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