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18時31分、異常事態発生から7分、機は静岡県焼津市上空を通過していた。高度2万4千9百フィート(7千6百メートル)、時速460キロ。このあたりから次第に機首の横揺れと左右の傾きが激しくなり、右に60度、左に50度も傾いた。衝撃音の直後から降下しようと足掻いているが、この時になってもまだ機体は全く降下していない。
「バンク(角度)そんなにとるな」
機体が思うように動かないことは相馬にも解っている。しかしこれ以上機体が傾いたら、もうどうすることも出来ない。
「バンクとるな!」
「はいっ」
「失速するぞ」
藤島の額から汗が滴り落ちる。それを拭うことさえせず、藤島は操縦輪とトラストレバーを握り締めていた。
東京航空交通管制から再度交信が入る。
『Japan Air 123, Fly Heading 090 Radar Vector to Oshima. (大島へレーダー誘導します。90度(東)へ飛行してください)』
「But now, uncontroll!(しかし、現在操縦不能)」
思わず相馬は叫んでいた。
機首が20度上を向き、今度は15度下がる。東京航空交通管制によるレーダー誘導にも従えない。方向を変えるどころか、機体を安定させることが精一杯だった。
左のエンジン出力を僅かに上げ、右の出力を僅かに下げる。機首は勝手に上を向いたり下を向いたりと奇妙な動きをしつつも、123便はどうにか右へ大きく旋回し、焼津市から北に位置する富士山の方向へと飛行していく。
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