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空港ビル5階の廊下を歩きながら何気なく外を見ると、澄み渡った青空と入道雲、忙しく離着陸する航空機、それらを隔てるガラス窓に、うっすらと己が映っていた。
しっかりとプレスされたワイシャツは目に染みるほど白く、スラックスの折り目は幾分スタイルを良く見せているように思える。
鍔に刺繍の入った制帽の下の顔は、自覚はしていないが、年相応の、46歳の顔であるらしい。いつの間にそんな歳になったのか。果たして中身は、46歳という年齢に相応しく成長しているのか。
答えは「ノー」だ。13歳の息子相手に、本気で喧嘩腰になる自分がいる。16歳の娘の言動に、本気で呆れたりもする。自分はまだまだ大人になりきっていないのだ。
父親らしいことも、考えてみたらそれほどしてこなかったように思う。学校のことも、日々の生活のことも、すべて妻に任せきりである。よく妻はこんな男を見捨てないでいるものだ。
だから、という訳ではないが、今朝、ついに思いきって言ってみた。前々から言おうと思っていたことだが、それに対する子どもたちの反応が怖くて言い出せずにいた。
夏休みであり、また朝の遅い時間ということから、珍しく家族4人がリビングダイニングに揃っていた。言うなら今しかない。
──来月、海にでも行くか
言葉を口にした瞬間、顔から火が出た。心臓はドクドクと拍動し、新聞を持つ手が小刻みに震える。今こうして思い出すだけでも、顔が熱くなる。
思わず、空いているほうの手を頬に押しやり、誰にも見られないうちに火照りを冷まそうと試みた。 目的のディスパッチルームはもう目の前である。集合時間も迫っていた。相馬俊紀は立ち止まったまま、左右の頬へ交互に手のひらを押し付けた。
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