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翌日、あずみが起きた時、如月は家を出た後だった。
いつもなら散々起こされた挙句、歯も磨かずよれよれのジャージ、ボサボサの髪のままで朝ご飯を食べるのに、今日のあずみは違った。
一人で顔を洗い髪を梳かして着替えを済ませ、鈴木が朝食を運んでくれるのをいつもの席で待った。
「おはようございます。鈴木さん。今日もありがとう。」
朝食を一人で食べ、午前中は勉強をし、午後は買ってもらった自転車で出かけた。
教えてもらった近くのカフェに、三時のケーキを買いに行くつもりだった。
けれど、自転車は生まれてこの日が初乗りだった。
屋敷の前のカーブした長い坂は危険地帯そのものだったが、そんなことはつゆほども知らず出発し、何度も転び、迷いに迷ってカフェのある通りに着いたのは5時近くだった。
「あずみ君。」
あずみが壊れた自転車を引きながら歩いているところを見かけた木下がバスを降りて走って来た。
「あ・・・木下さん・・・」
「あずみくん、どうしたの・・・」
「自転車買ってもらったんです。木下さんに教えてもらったカフェに三時のおやつを買いに行こうと思って。」
「おやつって・・・もう五時だし・・・一体、何時に家を出発したの
・・・」
「お昼ご飯を食べてすぐくらいです・・・」
「その怪我。自転車も壊れてるじゃないか。」
「ちょっと、坂で転んでタイヤが曲がってしまいました。でも、もうすぐそこですし・・・」
「顔も血だらけだよ。」
「はい。大丈夫です。」
「大丈夫って・・・送って行くよ。一緒に帰ろう。手当てしないと。」
「いえ、大丈夫です。自転車ありますから。」
「これはもう乗れないよ。だから、ここら辺の駐輪場において・・・」
あずみは泣き出してしまった。こんなかっこ悪いところを見られたくなかったからだ。
ここまで夢中で走って来たが、自分の姿をよく見ると、買ってもらったばかりの新品の自転車もぼろぼろ、ズボンの膝も敗れて血が出ているし、シャツも破れて、おでこをぶつけて血が出ていた。
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