10.

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「もう帰れって言っているのに何で帰らないんだ。 もう用はないだろ。さっさと帰れ!」 「でも、あずみ君具合悪そうだし・・・・」 「具合悪いのはお前のせいだ。何日もまとわりつきやがってめんどくせー もーガキじゃねえんだ服くらい一人で着れる。だいたい、僕はお前が嫌いなんだ。 お前もそれはわかっているだろう。キスしたくらいで調子づきやがって、なんだよ、彼氏面かよ。」 「そんな・・・そんな気は・・・・」 「だったら帰れ。今すぐ。」 雅は帰って行った。あずみは遠くなっていく車の音を聞いて(これで明日は遊園地に行ける・・・)とほっとしていた。そして鈴木と買い物に出たあずみは、すっかり頭いたがおさまっていることに気づいた。思い切り声を張り上げてすっきり晴れ晴れした気分だった。 鈴木にサンドウイッチの作り方を教えてもらい、散歩をしたり本を読んだりと明るいうちは一人でよかった。子供の頃からそうだったからその方が自由でのびのびできてよかった。 が、辛いのは日が落ちてからだった。 鈴木も帰り屋敷の中の電気をつける頃が一番寂しかった。 ここ二、三日雅と共に過ごしてなんやかんやと言いながらも、そこそこ楽しかったから、なおさらだった。 時間がとてつもなく長く感じた。 勉強をしていても本を読んでも、一向に時間が過ぎていない感じがして、しかも「ちちち」と時計の針の音がやたらうるさくて、部屋の中の時計も、廊下の時計も全部クローゼットに隠した。 ベッドに入るとなぜか雅の暖かい胸の香りと、唇の柔らかい感触が脳に浮かんだ。 (なぜ雅?・・・絶対に思い過ごしだ、一回のキスくらいで僕としたことが・・・) そうは思ってはみたものの、暗い部屋のベッドの中で一人、目を閉じるとやっぱり思い出すのは雅のキスの味だった。 「あー、もう・・・・」 多分、この寝付けない感じは、明日の遊園地が嬉しいのと、昼過ぎまで眠っていたせいだ・・・ あずみは、如月の書斎から一番面白くない分厚い本を選びそれをベッドで読み始めた。 何が書いてあるのかさっぱり意味不明な本だった。パラパラめくると、一枚の写真が出て来た。あずみはその写真を見ずに本に挟み込むと、もう一度その意味不明な文字を追い、四十五分後にやっと眠れた。
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