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「あずみ君・・・あずみ君・・・」 作業服を着た山波が部屋の真ん中を占拠していたあずみを揺り起こした。 「あ、山波さん。お久しぶりです。」 「あ、お久しぶり。元気だった。」 「はい、とても・・・」 「もうお昼過ぎたよ。顔を洗っておいで。ご飯を食べよう。」 「はい。」 外は曇りだった。こういう日は体がだるい・・・・歯を磨き、食卓に座ると山波が卵丼を作って出してくれた。 「山波さんはお料理が得意なんですね。」 「食べる前からわかるの?」 「わかります。ちゃんとタマゴの色をしています。それにいい香りです。」 「ありがとう。食べて。食べたら送るね。」 「はい。ありがとうございます。 山波さんはなんでもできますね。仕事も料理もなんでもかんでも。かっこいいし。 女の人にも相当モテたでしょ。」 「うん。モテたよ。」 山波は微笑みながらさらっと答えた。 「でも、規夫君なんだ・・・」 「僕の初恋の人だから。」 「は・・・初恋・・・」 「これは内緒だからね。絶対、緑山に言ってはいけないよ。」 「は・・・はい・・・」 「離れに住んでいたとき・・・庭で遊ぶ彼を見て、妖精が降りて来たのかと錯覚したよ。 キラキラと輝いて、彼の微笑みは、窓の向こう側にいる僕にまで届いて、ただそれを見ているだけで幸せだった。彼が男の子だと気づいたのはずっと後の話で、その時はその妖精に恋をしたのであって、性別は関係なかった。」 「規夫君は子供のころからとてもかわいかったですよね・・・この僕でさえも嫉妬するくらい・・・」 「その妖精がね、ある日、如月に襟首をつかまれてやって来たんだ。 掴まったって感じで。驚いたよ。とうにおとぎの国へ帰ってしまったものだと思っていたから。それから、机を並べて如月の仕事の手伝いをするようになったのだけれど・・・妖精はまったく微笑んでくれなかった。 毎日、毎日悲しみに溺れそうになっていた。」
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