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「そして、規夫君は大学を辞めて家を継ぐことになったんですね。」
「うん・・・」
「そういえば、そのとき、山波さんはどこで何をしていたのですか?」
「何も・・・何もできなかった。」
「マンガ喫茶に入って、部屋に閉じこもって泣いていた。立ち上がる力もなくて風呂にも入らず、ただ泣いていた。けど、もしもこの先、どこかで緑山とすれ違ったりしたときに昔付き合っていた男は、あんなに惨めな男だったのかと幻滅させたくなくて・・・またどこかであっても、彼があの男と付き合っていてよかったと思えるようになろうと思って、仕事を探した。すむところも見つけて、生活をもとに戻そうと努力した。」
「頑張ったんですね。」
「うん。昔ね、君のお父さんに拾われたとき、頑張れよって。頑張れば必ずいいことがあるからねって、何度もそう励まされたんだ。だから、そのいい事のために努力する事は僕の中では当たり前なんだ。そうやって努力していたおかげで、また妖精を見つけることができた。
今度はスーパーのレジで。」
「おめでとうございます。」
あずみは深々とテーブルに鼻が付くくらいに頭を下げた。
「ありがとうございます。」
山波も同じようにあたまを下げた。
「本当に嬉しかったのですね。」
「たとえようのないほどにね。彼を見つけたあの時の、あの瞬間はもう、一生忘れられないよ。」
「初めてキスした時とどっちがうれしかったですか?」
「あずみ君・・・意地悪だな・・・・」
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