人形の部屋

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疲れている貴方は、部屋に戻るや否や、黒くて重いコートを丸め、愛用の帽子と共にテーブルの上に放り投げる。時として、それはテーブルの角にひっかかり、だらしなく広がるものの、お構い無しだ。 とにもかくにも一日は終わったのだ。 ケバケバしい舞台装置に下品なダンサーの衣装。そしてオーケストラとは名ばかりの、ペテン師の奏でる安っぽいマーチもジンタも、もうおしまいだ。 朝までの数時間は、貴方の為だけにある。 貴方はソファに座り、左手で眼鏡をとり、右手で顏をゆっくりと撫でる。まるでそれが儀式であるかのように、毎日、毎日、飽きもせず同じ動きを繰り返す。 大きく息を吸って、黴臭い部屋の空気を吸い込んでは、少しむせる。そうしていると、貴方は少し歳をとったようだ。 インスタント珈琲が、ゆっくりと部屋を暖め、貴方の両手を温め、唇を温めていく。今度はホロ苦い吐息が、部屋に充満していく。 つり上がった眉がおりかかる頃には、貴方はソファの肘掛けに頭を載せ、ぼんやりと天井の梁を眺めたり、壁に貼ってあるポスターの字面を読んでみたり。何かを考え事をしているのか、していないのか、時折居心地悪そうに寝返りを打てば、その度にソファはギシギシと悲鳴を上げる。 時計が午前零時を告げる頃、ようやく貴方は起き上がり、ネジれたシャツの裾を吊りズボンの中に押し込んで、冷えた珈琲を一口で飲み干す。 それから部屋の隅に座っているわたしに向かって深くお辞儀をすると、もう一度眉を吊り上げてみせ、そしていつもの呼び込みをはじめる。
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