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「さぁさぁさぁ。紳士淑女の皆々様。寄ってラッシャイ見てラッシャイ。これなるは芸術の都・巴里から離れること五〇〇キロ。霧の都・倫敦で、三ツ星にも輝いた、サーカスと呼べばこのテント。バルーン一座のお出ましだ。アッと驚く曲芸は、ハラハラドキドキ空中ブランコ、火の輪くぐりはアッチッチ、ピエロにダンサー、馬にライオン、おっと忘れちゃあいけないトランポリンと、ありとあらゆる演目が、ホンの目の前で繰り広げられる。さっ、いい子悪い子集まって、バルーン一座の開幕だ。さぁさぁさぁさぁ。寄ってラッシャイ見てラッシャイ。」
貴方は、自分を蔑んでいる。醜く、卑しく、この世の中で一番価値のないものだと定義している。
だから、その正体がバレないよう分厚い仮面をかぶり、一日のうちに何度もそれをつけ直す。
だから、その仮面を外すのはこのわたしだ。わたしは貴方の顏をじっと見つめる。途端に仮面が溶け出していく。
「そうだ。その通り。お前さんがそこにそうしている限りこの俺の淋しさは続くだろう。何十回も抱きしめ、その匂いに埋もれて、愛を告げて、でも俺とお前さんの未来は変わらない。この瞬間俺の頭の中では世界の破滅を願っているのに。」
わたしは貴方の言葉が解らない。どうして本当の貴方は、いつも怒ったり、嘆いたりするのだろうか?ただ笑ってさえいれば、それだけで世界は光り輝くのに。
わたしの態度に、あなたは唐辛子のように顔を赤らめ、耳から湯気を出しながら怒りをあらわにする。苛立ちに足を震わせればテーブルの上のコップがカタカタとダンスを始める。
「お前は、ただ黙って、そこに座って、じっと俺の言うことを聞いていればいいのだ。その目で、俺を見つめ、その存在で、俺を喜ばせればいいのだ。なのに何故、お前は俺を不安にさせ、すべての歓びを奪おうとするのだ。その笑みは一体なんだ?お前さんはそうして誰にでも愛想をふりまいて。相手は誰でもいいというのか?それでは淫売と同じだ。」
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