第7章:希望のともし火

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第7章:希望のともし火

 翌朝達也は気分を変えてプラド美術館に出かけてみた。 アラゴン生れの画家ゴヤの〝裸のマヤ〟と〝服を着たマヤ〟ヴェラスケスの〝糸紡ぐ女〟が達也の目を惹いた。  広いホールは数え切れない程の絵画や彫刻が展示され、別館を見る事は一日では廻り切れなかった。日本では見た事も無い、好きな画家の絵の前にキャンバスを広げて模写している画学生だろうか、それが五、六人も居て、その光景が達也を驚かせた。ナロー・マインドの国、日本ではとても想像出来ない寛容さである。  このプラド美術館にも大勢の日本人観光客が、ひっきりなしに押し寄せ、それも達也を驚かせた。長く館内を歩いた所為か、左後の腰が痛み、達也は室内中央にあるソファーに座って脚を休めた。正面にゴヤの〝ボルドーのミルク売り娘〟が掛かっている。  猥褻画家として告発され七八歳でフランスに亡命したゴヤが、亡命先のボルドーで、毎朝ロバに乗ってミルクを届けに来る若い娘を描いたものである。  白百合のような清らかさと、古典的な優しい美しさは〝黒い絵〟 の陰惨なイメージと違って、明るく情緒的だった。八二歳で逝くゴヤの最後の女性賛歌を慈しみながら、達也は己の若さを実感した。     
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