第7章:希望のともし火

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《俺は未だ若い。たったの四九歳だ。未だ人生を半分来たばかりなのだ。この娘のような若い女と、もう一度やり直す事だって出来るのだ……》そう思うと視界を遮っていた霧が掻き消える様に、希望の灯が胸に燈った。 《何だ、だらしねえ、若いくせに妙に悲観して、頑張るんだ達也!》熱い身内からこみ上げるような歓喜に包まれて、達也は自分の魂が再生を望んでいる事を実感した。 《生きてやる、命尽きるまで、俺は頑張るぞ……》達也は、ゴヤの〝ミルク売り娘〟に語り掛ける様に全身全霊の力をこめてそう誓った。  憑き物が落ちたように、達也は意欲的になった。  夜はテアトロ・リリコ・ナショナルにスパニッシュ・オペラを見に出かけた。 出し物は〝DON・GIL・DE・ALCALA〟喜劇である。スペイン語で語られるオペラは始めてだったが、判りやすく面白い。舞台が額縁の中に入っていてセピア色の活動写真を眺めているような気分である。  このテアトロ・リリコは四層だが比較的こじんまりと纏まっていて、観劇は楽しかった。  オペラといえば、テアトロ・レアルが改修工事中で、サルスエラを見る事が出来なかったのが残念だった。九二年のオリンピックを当てこんで大改造中である。  翌日も達也はマドリッド市内のサラマンカ地区にある〝サンブラ〟でフラメンコ踊りを見てから、夜更けの街をさ迷い歩いた。      
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