第7章:希望のともし火

3/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
 喉が乾くと街角のバールに入り一杯の酒に脚を休め、異国の人々の話しに耳を傾けた。  異国の言葉が解ると言う事が、どんなに素晴らしい事か、その喜びを酒に溶かして喉に流しこんだ。若い頃に南米を七年も放浪して覚えた言葉が中年の達也の身を助けてくれている。六〇年安保闘争に破れて、石もて追われる様に国を飛び出してきた己の青春時代を、初めて《あれで良かったのだ》と肯定・是認する気持ちになった。 《サルー!ブラジル! ビーバー・アルヘンチーナ! そして我が青春の日々よ!》  達也はラム酒を頼んで過去の自分に乾杯すると、一気にそれを飲み干した。  ホテルに帰りベッドに横になると、サンブラで飲んだラム酒の所為か、睡魔が達也を気持ち良く襲った。意識の消え行く間に考えた事は、明日からトレードを振り出しにスペインの町々を車で駆け巡り、それに飽いたらサラマンカから北に抜けてポルトガルのポルト市に抜ける旅の計画だった。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!