第8章:トレードからコルドバへ

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十五分毎に鐘がなり、若い寺僧が交代で祈りを捧げる合図のような気がした。澄んだ鐘の音に導かれる様に、睡魔が目蓋を閉ざし、達也は朝までぐっすりと眠った。  グアダルキビル河の流れのせいか清新な冷気が鎧戸の隙間から流れてきた。ベッドに横になったまま、達也は幼い娘の名を呼んだ。 《アリス! 元気か! パパも元気だ。今スペインのコルドバに来ている》 《スペインって何処? 何故スペインに居るの?》 《いつかお前に会うために、心を鍛えにやって来たのだ。パパが元気になったら必ず会いに行くから、それまで元気で待っていてくれ》 《いいわ、パパ、じゃバイバイね》 アリスはいつもの様に手を振り、けんけんをして消えて行った。 《待って! アリス もう行くのかい?》 もどかしげに宙を掴む達也の手が窓から差し込む光に向って伸びた。 《夢か……、ああ、アリスをもう一度この胸に抱きたい》父親っ子だった娘の不憫さを思うと、涙が達也の頬を濡らした。  朝食後、ホテルの前のカテドラールを訪れた。やはりアラブ征服時代の名残のある寺院である。ローマ時代のヤヌスの神殿の跡に建てられたもので、アブドウル・ラフマン一世が七七〇年に起工し、ヒシャーム一世治下に完成したイスラム建築の素晴らしい傑作である。  しかし一五二三年マンリーケ主教によって、ゴシック風の聖堂に改築され、現在に至っている。ここでも地から湧いたように日本人のグループが目を惹いた。
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