第9章:セビーリャでの麻里との出会い

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第9章:セビーリャでの麻里との出会い

 街外れに緑を映す美しい河が流れ、城壁のような石組の寺院を映して絵のような眺めである。美しいコルドバに別れを告げ、橋を渡ってセビーリャに向けて車を走らせた。  途中で一休みをして、セビーリャ市の中心部に着いたのは二時間ほど経った頃だった。  アンダルシア地方セビーリャ県の首都で人口七十五万、スペイン第四番目の都市である。あの有名なヴェラスケスもこの街で生れたと言う。達也は市の中心に在るホテル・イングラテーラにチエック・インした。  路銀も残り少なになっているのに、何故か一流のホテルを選んでしまう。アメリカ時代の生活習慣で、汚い宿には生理的に拒否反応を感じてしまうからだ。久しぶりに風呂に入り、汗を流して、夕食は近くにあるレストラン・ラ・イスラで兎料理を楽しんだ。  そこの給仕人(モッソ)の教えてくれたロス・ガージョスにフラメンコを見に立寄ったのは、夜も更けて十一時を過ぎていた。暗い客席に案内され、廻りを見回すと、階段客席の数段下に若い日本人らしい女が独り座っている。未だ開演までには時間が掛かるらしい。  手持無沙汰も手伝って、ぽつねんと舞台を眺めている女を観ていると、時と場所にそぐわない若い女に興味をそそられた。  真夜中に近い異国のナイトショウに、連れも無く独り座っている女の異様さに戸惑いを感じた。 《近頃の女は度胸がいいや……》   若いが硬い印象で娘独特の華やかなところがない。文学少女の様に油気の無い硬い髪と、黒い眼鏡のフレームの奥に、少女のような恥じらいと好奇心、警戒心を綯い交ぜた瞳を隠している。  彼女の印象は明らかに達也の好むタイプではなく、ただ純真に日本人として、年上の老婆心から、袖触れ合うもなんとやら……枯れた気持ちで声を掛けた。 「日本の方ですか?」 「ええ、そうです」 「大丈夫ですか? 誰か、御連れの方を御待ちなんですか?」 「いいえ、独りです」 「……宜しかったら、ここに来て御一緒しませんか?」  女は素直に頷いて、達也の隣りに来て座った。 「何処からですか?」 「東京です」
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