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ショウが始まった。極彩色のコスチュームと光りの交錯がヒターナの奏でるギターと歌声に乗って乱舞し、二人は吸い込まれるように怪しい音響と美しい歌姫の踊りにしばし我を忘れた。
「ファンタスチック!……」
狂わんばかりに踊っているヒターナの頬が上気して黒い瞳がめらめらと燃え上がる様に輝いている。
踊りが一段とスピードを増して、そして、突然フィナーレ。鳴り止まぬ拍手のなかで客席に明りが燈った。
「流石ロス・ガージョス、振りつけも演出も独特ですね、レストランの給仕が、是非観る様にと勧めてくれた意味が判りましたよ」
「……」
「お独りで旅行されているのですか?」
「ええ……」
言葉少なに返事を返す女に、
「内山達也です。宜しく」と、手を差出した。
「今井……麻里です」
女は達也の手を握り返した。パリを振り出しに、ベルギー、コペンハーゲン、スエーデン、ノルウエイ、そして叉パリに戻り、スペインに入国。マドリッドから列車でセビーリャに今日着いた.ばかりだという。
「凄いですね、旅のプロだ……」
達也は何か麻里に圧倒されるものを感じて、何がこの娘をヨーロッパへのひとり旅に突き動かしているのだろうかと考えた。
ジーパン姿にフランス製の緑色のアノラック、危険を犯して異郷をうろつく心境が判らなかった。世界中に蔓延している日本女性の自己本位な一人旅を、達也は正直危惧していた。男性の自分でさえ警戒を怠らないのに、旅先のあちこちで見かける日本女性の、無用心さが目に余っていたからである。
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